エクセルの版の管理はどこで崩れるか|最新がどれか分からなくなる前に
エクセルの版の管理で検索する人が本当に困っているのは、ファイルが増えたことそのものではありません。「いま手元で開いているこの表が、チームの最新なのか確信が持てない」という状態です。名前の末尾に日付が付いたファイルが並び、誰かがメールに添付し、別の誰かが手元で直し、気づいたときには数字の合わない表が2つある。この段階に入ると、進行をとりまとめる人の仕事は、進行の管理ではなく版の照合に変わります。
この記事では、版が分かれる瞬間がどこにあるのかをまず分解します。そのうえで、ファイル名に日付を足す運用がどこまで持つのか、置き場を1つにするだけで何が消えて何が残るのか、履歴が自動で付く形に移すとしたら何を判断材料にすればよいのかを、段階に分けて整理します。エクセルをやめる話ではありません。表計算ソフトが向いている仕事はいまも多く、無理に手放すと計算の自由さを失うだけです。切り分けるべきは、表計算に残す仕事と、置き場を移すべき仕事の境目です。
版が増えるのは、道具が悪いからではない
最初にはっきりさせておきます。エクセルで版が増えるのは、使い方が下手だからでも、道具の出来が悪いからでもありません。ファイル単位で完結する設計になっている以上、複製されれば版は分かれます。これは仕様であって欠陥ではありません。
ファイルという単位が持っている強さと、裏側にある性質
表計算ソフトが現場で使われ続けるのは、ファイルが独立していることの強さがあるからです。1つのファイルを渡せば、相手の環境がどうであれ、そのまま開いて中身を見て、必要なら計算式を足せます。ネットワークが不安定でも作業できます。誰の許可も要らずに列を1つ足せます。取引先に送っても、追加の説明なしに読んでもらえます。
進行の管理表が表計算ソフトから始まる理由は、この手軽さにあります。管理表を作ろうと思い立った人が、その日のうちに形にできる道具は他にほとんどありません。5人から10人ほどのチームであれば、最初の数か月は表計算の管理表でまったく問題なく回ります。
ただし、独立して持ち運べるという性質は、そのまま複製できるという性質でもあります。渡した瞬間に、渡した側と渡された側の2つになります。どちらかが編集すれば、その時点で内容の違う2つの版が存在します。これは操作ミスではなく、ファイルという単位が持っている性質です。
版が分かれても問題にならない条件
版が分かれること自体は、必ずしも困りごとになりません。困るのは、次の3つが重なったときだけです。
1つ目は、更新する人が2人以上いること。1人しか触らないなら、手元にあるものが常に最新です。2つ目は、内容が頻繁に動くこと。月に1回しか変わらない表なら、多少の混乱は取り返せます。3つ目は、その表を見て誰かが判断していること。進捗を見て人を動かす、残数を見て発注する、といった判断が乗っている表は、古い版で判断された時点で実害が出ます。
裏を返すと、更新するのが1人だけで、内容が動かず、記録として保管しているだけの表なら、版の管理に手間をかける必要はありません。手を入れるべきなのは、この3条件が揃っている表だけです。とりまとめる立場の人が最初にやるべきなのは、管理しているファイルを全部数え上げて、3条件に当てはまるものだけを選び出すことです。多くの場合、その数は3個から5個程度に収まります。全部を対象にすると、手が回らなくなって結局どれも管理されません。
版が分かれる瞬間は、だいたい決まっている
版が増える経路は、現場ごとに違うようでいて、実はいくつかのパターンに収まります。どこで分かれているのかを特定できれば、打ち手はその一点に絞れます。
添付で配った瞬間に分かれる
いちばん多い経路です。定例会の前に最新版を添付して全員に送る。受け取った人はそれをダウンロードして、手元のフォルダに保存します。この時点で、参加人数と同じ数の複製が生まれます。
問題は、そのうちの誰かが自分の担当分を書き込んで返送してくることです。返ってきたファイルには、その人の担当分だけが最新で、他の部分は配布時点のままの数字が入っています。とりまとめる人は、返ってきた複数のファイルから、それぞれの担当箇所だけを拾って本体に転記することになります。この転記作業が、版の管理という名前で呼ばれている作業の正体であることは少なくありません。
締切前に手元で作業して分かれる
共有フォルダに置いてあるファイルを開こうとしたら、他の人が開いていて読み取り専用でしか開けない。急いでいるので、いったんデスクトップにコピーして作業する。あとで戻すつもりで忘れる。
これは操作としてはごく自然で、責める種類のことではありません。表計算ソフトの共有機能を使えば同時編集ができる場合もありますが、大きな表や複雑な計算式が入っている表では動作が重くなり、結局ローカルにコピーする流れになりがちです。締切が近い日ほどこの分岐は起きやすく、しかも一番数字が動いている時期に起きます。
外の人に渡して分かれる
社外の協力先や業務委託の相手に、担当範囲の表だけを切り出して渡す。相手からはメールやチャットで更新された表が返ってくる。社内の共有フォルダには入れられないので、受け取った表は担当者の手元にとどまります。
外部が絡むと、置き場を1つにするという解き方がそのまま使えません。共有フォルダに入ってもらうには権限の設計が要りますし、相手の会社の規定で外部のフォルダに入れない場合もあります。この経路は、社内の版の管理を整えても最後まで残ります。
現場でよく聞くのは、社内の版はきれいに整ったのに、外部から返ってくる表の取り込みだけが手作業のまま残ったという話です。外部が絡む部分は、置き場を統一するのではなく、受け取り口を1つに決めるという別の解き方になります。
ファイル名に日付を足す運用は、どこまで持つか
版が分かれることに気づいたチームが最初にやるのが、ファイル名のルール決めです。これは正しい第一歩で、実際に効きます。ただし効く条件と、崩れる条件がはっきりしています。
日付を足すやり方が効く条件
進捗管理表_20260901.xlsx のように末尾に日付を足すやり方は、次の条件が揃っていれば十分に機能します。
更新する人が2人か3人までであること。更新の頻度が週1回程度で、日に何度も動かないこと。ファイルの置き場が1か所に決まっていること。この3つが揃っていれば、名前を見るだけで最新が分かります。日付は8桁で書けば並べ替えたときに時系列に並ぶので、一覧の一番下が最新になります。
規模の小さいチームで、これ以上の仕組みを入れるのは過剰です。運用のルールを覚えるコストのほうが高くつきます。名前のルールを決めて、それを守れているうちは、それが最適な状態です。
崩れ方1、命名のルールが守られなくなる
崩れは、たいてい急いでいる日に始まります。進捗管理表_20260901_修正.xlsx、進捗管理表_20260901_修正2.xlsx、進捗管理表_20260901_最新.xlsx、進捗管理表_20260901_田中確認済.xlsx。日付が同じで枝番だけが違うファイルが並び始めた時点で、名前から最新を判断できなくなります。
守られなくなるのは、ルールを軽んじているからではありません。急いでいるときに正しい名前を考える余裕がないからです。ルールを守る負担が、守った場合の利益より大きくなった瞬間に、命名規則は破られます。この点を運用の徹底で解こうとしても、同じことが繰り返されます。
崩れ方2、日付は「作った日」であって「正しい日」ではない
ファイル名の日付が示しているのは、そのファイルを保存した日です。中身がその日時点で正しいことを保証しません。
たとえば、9月1日に作った表を9月3日に開いて、名前を変えずに1か所だけ直して上書きすると、名前は9月1日のまま中身は9月3日のものになります。逆に、9月3日に作ったファイルの中身が、実は9月1日時点のデータを元にしていることもあります。名前と中身のずれは、あとから見ても検証できません。
もっと厄介なのは、更新日時の列も当てにならないことです。ファイルをコピーしたり、別のフォルダに移したり、圧縮して展開したりすると、更新日時が操作した日に書き換わることがあります。並べ替えて一番新しいものを取れば安心、とはいきません。
崩れ方3、名前を見ても差分が分からない
いちばん本質的な限界がここにあります。ファイルが2つあったとき、どちらが新しいかは名前から推測できても、どこが違うのかは開いて比べるまで分かりません。
行数が同じで、数字が数か所だけ違う表を2つ並べて比べる作業は、目視ではほぼ不可能です。表計算ソフトには差分を比較する機能が備わっている環境もありますが、日常的に使えるほど手軽ではありません。結果として、比べるのをあきらめて「たぶん新しいほうが正しい」と判断することになります。この判断が1回でも外れると、古い数字で発注をかけたり、終わっているはずの作業をもう一度依頼したりといった実害が出ます。
版の管理という言葉で本当に必要とされているのは、どれが新しいかを知ることではなく、いつ誰が何をどう変えたのかを追えることです。ファイル名では、そこまで持てません。
段階1、名前と置き場の決めごとで寿命を延ばす
道具を変える前にやれることがあります。命名規則を決め直すだけでも、崩れるまでの時間はかなり延びます。
決めるのは3つだけにする
ルールが多いと守られません。決めるのは3つで足ります。
1つ目は、日付の書き方を8桁の数字に統一すること。20260901 の形にすると、名前順で並べ替えるだけで時系列になります。9月1日 や 2026-9-1 のような書き方が混ざると並びません。2つ目は、日付を必ず同じ位置に置くこと。末尾か先頭かはどちらでもよく、混ぜないことだけが重要です。3つ目は、日付のあとに付ける枝番を、数字だけに限ること。_v2 _v3 のように数字だけで増やせば順序が分かりますが、_修正 _最終 のような日本語が混ざると順序が消えます。
この3つ以外は決めないほうがうまくいきます。担当者名を入れる、案件コードを入れる、といったルールを足すたびに、守られない確率が上がります。
「最新」という名前のファイルを作らない
進捗管理表_最新.xlsx というファイルは、作った瞬間は便利で、数週間後には必ず嘘になります。最新版が別にできても、名前が「最新」のファイルは名前を変えないまま残るからです。
同じ理由で、最終版、確定版、FIX も避けたほうが無難です。これらは状態を表す言葉ですが、ファイル名は状態を追随してくれません。状態を名前に書くと、その名前は必ずどこかの時点で事実と食い違います。名前に書いてよいのは、あとから変わらない情報だけです。日付は変わりません。
版を止める日をあらかじめ決める
もう1つ効くのが、この日以降は編集しないという線を先に引くことです。月末の締めや、定例会の前日など、区切りになる日を決めて、その時点のファイルを別のフォルダに移して読み取り専用にします。
こうしておくと、過去のファイルは動かないことが保証されるので、比べる対象が「動いている1つ」と「止まっている過去」の2種類に整理されます。動いているファイルが1つしかない状態を作れれば、版の混乱の大半は消えます。逆に、過去のファイルを同じフォルダに置いたままにしておくと、いつまでも候補が増え続けます。
公的機関が示している文書管理の考え方でも、要点はほぼ同じところに置かれています。
業務で扱う文書は、どれが有効な版なのかを識別できる状態にし、更新の経緯をたどれるように保管することが基本になる。保管場所を分散させず、変更の記録を残す仕組みを持つことが、取り違えや改ざんを防ぐうえで重要となる。 出典: ipa.go.jp
識別できること、経緯をたどれること、場所を分散させないこと。この3点が揃えば、版の管理は成立します。ファイル名だけで満たせるのは1つ目までです。
段階2、置き場を1つにする
命名を整えても、置き場が複数あるかぎり複製は増えます。次の段階は、ファイルの実体を1か所に集めることです。
添付をやめて、場所を指すもので渡す
いちばん効果が大きいのがこれです。ファイルそのものをメールやチャットに添付するのをやめて、置いてある場所を指す形で渡します。クラウドのストレージでも、社内のファイルサーバーでも構いません。重要なのは、受け取った人が自分の手元に複製を作らずに、置いてある実体を直接開くことです。
この切り替えは技術的な難しさよりも、習慣を変える難しさのほうが大きいです。添付は相手に親切な行為として定着しているので、やめると不親切に見えます。ここは、とりまとめる側が「添付は送らない、場所を送る」と宣言して、自分から一貫してそうするしかありません。数週間で慣れます。
現場でよく聞くのは、添付をやめた直後は問い合わせが増えるが、1か月ほどで元より減るという話です。最初は場所が分からない人からの質問が来ますが、一度たどり着いた人は次から迷いません。
編集する人と、見るだけの人を分ける
置き場を1つにすると、今度は同時編集の衝突が起きます。ここで有効なのが、編集できる人を絞ることです。
進行の管理表であれば、全員が編集する必要はありません。数字を書き込むのは担当者だけ、他の人は見るだけ、という分け方にすると、衝突する場面が大きく減ります。表計算ソフトでも、シートやセルの範囲に保護をかけて、特定の列だけ編集できるようにする設定が使えます。担当者ごとに書き込む列を決めておけば、同じセルを2人が触ることはなくなります。
ただしこれには副作用があります。編集できる人を絞りすぎると、入力する人が減って表が更新されなくなります。進捗の表は、入力する人が増えないとすぐ嘘になります。絞るのは編集の権限ではなく、編集する場所であるべきです。
置き場を1つにしても消えない問題
置き場を統一すると、複製の問題は大きく減ります。それでも残るものがあります。
1つは、誰がいつ何を変えたのかが分からないことです。同じファイルを複数人が書き換えると、最終的な保存日時と保存者しか残りません。数字が間違っていると気づいたとき、いつからその数字だったのか、誰が入れたのかをたどれません。とりまとめる人が「先週の数字に戻したい」と思っても、戻す先がありません。
もう1つは、開いている人がいると編集できないことです。読み取り専用で開けば見ることはできますが、書き込みたい人は待つことになります。大きな表ほど開いている時間が長くなるので、待ち時間が積み上がります。工程表を1人が引き直している間、他の人はその表を見ることしかできません。
3つ目は、外部の人が入れないことです。前の章で触れたとおり、社外の協力先を社内のフォルダに入れるには権限の設計が要りますし、相手側の規定で入れない場合もあります。外部が絡む部分だけは、置き場の統一で解けません。
段階3、履歴が自動で残る形に移す
ここまでの2段階は、運用の工夫でできることです。それでも残る3つの問題を解こうとすると、道具の側の設計を変える話になります。
「誰が」「いつ」「何を」が自動で付くという条件
版の管理で最終的に必要なのは、変更の記録が人の手を借りずに残ることです。誰かが更新したときに、その事実が自動で記録される。あとから見返して、どの時点で何が変わったのかをたどれる。この形になっていれば、そもそも「最新がどれか」を探す作業がなくなります。表が1つしかなく、その表が常に最新だからです。
クラウド型の表計算サービスにも版の履歴を残す機能はあります。まずはそこで足りるかを試すのが順当です。ただし、履歴が残るのはファイル全体の状態であって、「この案件の担当が変わった」「この作業が完了になった」といった業務上の出来事とは対応していません。数字が変わった事実は追えても、なぜ変わったのかは追えません。
板型の管理ツールに移すと、この対応関係が変わります。表の行にあたるものがカードという単位になり、状態の変更や担当の変更が、そのカードの出来事として記録されます。最新がどれかを探す必要がなくなり、板そのものが常に最新の状態になるという点が、ファイル単位の管理との一番大きな違いです。
表のまま残すもの、板に移すもの
全部を移すという発想は、たいてい失敗します。表計算に向いている仕事と、板に向いている仕事は別です。
表計算に残したほうがよいのは、計算が主目的のものです。工数の積み上げ、原価の計算、単価を掛けた見積金額、稼働率からの必要人数の逆算。この手の計算の自由さは、専用の管理ツールでは取り戻しにくい部分です。また、社外に提出する定型の帳票や、印刷して配る資料も表計算のほうが速く作れます。
板に移す価値があるのは、状態が動くものです。作業の進み具合、担当の割り当て、確認待ちや差し戻しといった段階、期限の管理。これらは「いまどうなっているか」が頻繁に変わり、複数の人が同時に見て、見た結果で行動が決まります。ここが、ファイル単位の管理と相性の悪い領域です。
判断の目安は単純です。その表を週に何回書き換えているか。更新できる人が何人いるか。この2つを数えて、週に何度も書き換わっていて、更新できるのが実質1人だけという状態なら、移す価値があります。月に1回しか触らない表は、そのままでかまいません。
移行でやりがちな失敗
移すと決めたあとに起きやすい失敗が3つあります。
1つ目は、表の列をそのまま項目として持ち込むことです。表計算の管理表は、使っているうちに列が増えます。使わなくなった列も消さずに残っているのが普通です。それを全部そのまま新しい道具に移すと、入力欄の多い画面ができあがり、誰も埋めなくなります。移すときは、直近3か月で実際に更新されている列だけを持っていくのが安全です。
2つ目は、過去のデータを全部移そうとすることです。終わった案件まで移すと、作業量が跳ね上がるうえに、板が過去のカードで埋まります。動いている案件だけを移して、過去分は表計算のファイルを読み取り専用で残しておくほうが早く終わります。過去を参照する頻度は、想像しているよりずっと低いのが普通です。
3つ目は、移行の期間に両方を並行して更新することです。安全のつもりで両方に入力すると、入力の手間が2倍になり、数日で片方が止まります。そして止まったほうがどちらだったのか分からなくなり、また版の照合が始まります。切り替える日を決めて、その日から片方だけにするほうが結果的に安全です。
移行そのものの手数がどれくらいかかるかは、事前に把握しておいたほうがよい部分です。既存の板から自動で取り込める場合と、手で作り直す場合では、必要な時間がまったく違います。取り込みの対応範囲についてはTrelloからの移行にまとまっていて、自動で取り込めるのはTrelloからだけである点も明記されています。他の道具からの移行は、手作業になる前提で見積もっておくのが安全です。
移したあとに残る仕事
道具を変えても自動的には解決しない部分があります。とりまとめる立場の人が本当に気にしているのは、たいていここです。
入力する人が増えなければ、板も嘘になる
これが最大の論点です。表計算の管理表が形骸化する理由は、ファイル形式のせいだけではありません。入力する人が1人に固定されて、その人が忙しくなると更新が止まるからです。同じ構造のまま道具だけ変えても、止まる時期が少し延びるだけです。
入力する人を増やすために効くのは、入力する量を減らすことです。担当者が触る項目を、状態の欄1つだけに絞る。数値の入力を求めない。コメントを必須にしない。ここまで削ると、更新のハードルが下がって続くようになります。逆に、詳細な進捗率の入力や、作業時間の記録を最初から求めると、ほぼ確実に定着しません。
現場では、入力項目を増やすと2週間ほどで誰も更新しなくなると言われています。増やすのはあとからでもできます。最初は削れるだけ削って始めるほうが確実です。
見る人の負担も同時に下げる
見る側の負担も見落とされがちです。板に移したのに、結局とりまとめる人が毎朝全部を見て回って状況を頭に入れている、という状態では、負担は減っていません。
必要なのは、見るべきものだけが目に入る形にすることです。期限が過ぎているもの、担当が決まっていないもの、確認待ちで止まっているもの。この3つが一目で分かれば、他は見なくてよくなります。逆に、全部の情報が同じ強さで並んでいる画面は、表計算の管理表と負担が変わりません。どの道具を検討するにしても、この点は必ず実際の画面で確かめる価値があります。機能一覧では判断できない部分です。何ができるかはできることで確認できますが、画面の見え方は実際に触って判断してください。
表計算ソフトに戻る場面を認めておく
移したあとも、表計算に戻る場面は必ずあります。月次の報告資料を作るとき、原価を集計するとき、社外に一覧を提出するとき。このとき、板から書き出して表計算で加工することになります。
これを失敗と考える必要はありません。日々の進行は板で回し、集計と提出は表計算でやる。この使い分けは合理的です。問題になるのは、書き出した表をまた手で更新し始めたときだけです。書き出した表は使い捨てにして、次に必要になったらまた書き出す。この線を引いておけば、版が分かれることはありません。
道具を選ぶときに、どこを見るか
最後に、道具を検討する段階での見方を整理します。機能の一覧を並べて比べても、続くかどうかは分かりません。見るべき軸は少数です。
すでにカードで日々の作業を回しているチームであれば、いま使っている道具のままで足りることも多いです。カード型の板は状態を動かすことに強く、版の混乱という意味では表計算より一段解決しています。板の考え方の違いや、どこで乗り換える理由が生まれるのかはTrelloとの比較に整理されています。使い方が合っているなら、乗り換える理由はありません。
タスクの粒度を細かく管理する型のツールは、担当と期限の管理が緻密にできる代わりに、設定できる項目が多くなります。項目が多いほど、入力する人が減るという先ほどの問題に直結します。機能の多さと使い続けやすさをどう天秤にかけるかはAsanaとの比較で扱っています。
文書とデータベースを兼ねる型の道具は、自由度の高さが最大の特徴です。表計算からの移行先として選ばれることも多い一方、自由に作れるということは、作った形を維持する人が必要だということでもあります。表計算で起きた「1人しか更新できない」という問題が、形を変えて再発することがあります。この点の見方はNotionとの比較にまとまっています。
広い範囲をカバーする管理基盤型のツールは、版の管理も含めて多くを1か所に集約できます。その分、初期の設計に時間がかかり、小さなチームでは使わない機能を持て余しやすいです。必要な機能と不要な機能をどう切り分けるかはmonday.comとの比較で扱っています。
日本の開発現場で長く使われてきた課題管理型のツールは、課題ごとに変更の履歴が残る設計になっており、版の管理という観点では相性がよい部類です。開発以外の業務も同じ場所で回すかどうかで評価が変わります。この使い分けはBacklogとの比較に書かれています。
国内発のボード型ツールとの違いは、機能の有無というより、料金の区切り方と画面設計の考え方に出ます。その見方はJootoとの比較で整理しています。道具ごとの位置づけを横に並べたい場合は比較の一覧から入るのが早いです。
比較のときに見落とされやすいのが、料金の区切り方です。履歴を残す機能や権限の設定が上位プランに入っていると、進行を預かる人の判断だけでは動かせず、稟議の話になります。試す前に承認が要る道具は、そもそも試されません。機能で絞らず、区切るのは人数とボードの数だけという設計であれば、まず1つの板を作って様子を見るという試し方ができます。プランの区切り方は料金で確認できます。なお、各サービスの料金や上限は変わるため、判断の直前に公式のページで確かめてください。この記事では、確かめられない数字は書いていません。
もう1つ、版の管理を移す話で必ず出るのが、データの置き場と扱いです。社内のファイルサーバーから外部のサービスに移すとなれば、情報の取り扱いをどう説明するかという話が付いてきます。この点の考え方は安全性の考え方にまとめてあります。所属する組織の規定によっては追加の確認が必要になるため、社内の規定と照らして判断してください。導入前に出やすい疑問はよくある質問に集めています。
正直に書いておくと、板型の道具にも弱いところがあります。ファイルの版を細かく枝分かれさせて管理するような仕組みは持っていません。自動化や外部サービスとの連携の幅で選ぶなら、他の道具のほうが向いています。画面は日本語のみで、自動で取り込めるのはTrelloからだけです。表計算の計算の自由さも取り戻せません。
それでも、この記事の主題である「最新がどれか分からなくなる」という一点に対しては、板に移すことが直接の答えになります。表が1つしかなく、変更が自動で記録され、開いている人がいても他の人が見られる。この3つが同時に満たされると、版を照合する仕事そのものが消えます。とりまとめる立場の人が取り戻したいのは、たいていその時間です。
判断の順番としては、まず命名と置き場の整理でどこまで持つかを試す。それで足りるなら、それが最善です。足りなくなる兆候は分かりやすく、日付が同じで枝番だけ違うファイルが並び始めたとき、そして更新できるのが1人だけになったときです。その2つが見えたら、道具の側を変える段階に入っています。
Q1. ファイル名に日付を入れる方法は、どのくらいの規模まで通用しますか?
更新する人が2人か3人まで、更新頻度が週1回程度、置き場が1か所に決まっている、という3条件が揃っていれば十分に機能します。崩れる合図は、日付が同じで枝番だけ違うファイルが並び始めたときです。その段階に入ると名前から最新を判断できなくなるので、置き場の統一へ進む時期だと考えてください。
Q2. 「最新版」という名前のファイルを作ってはいけないのはなぜですか?
最新や最終、確定といった言葉は状態を表しますが、ファイル名は状態の変化に追随しません。新しい版ができても、その名前は書き換えられないまま残ります。結果として、名前と中身が必ずどこかで食い違います。名前に書いてよいのは、あとから変わらない情報だけです。8桁の日付なら変わりません。
Q3. 表計算ソフトを完全にやめる必要はありますか?
ありません。工数の積み上げや原価の計算、社外に提出する帳票、印刷して配る資料は、表計算のほうが速く正確に作れます。移す価値があるのは、状態が頻繁に変わり、複数人が見て行動を決めるものだけです。日々の進行は板で回し、集計と提出は表計算で作るという使い分けが現実的です。
Q4. 表計算の管理表を別のツールに移すとき、何から手を付ければよいですか?
直近3か月で実際に更新されている列だけを選び出すところからです。使われていない列を全部持ち込むと入力欄が多くなり、誰も埋めなくなります。過去の終わった案件は移さず、表計算のファイルを読み取り専用で残しておけば十分です。切り替える日を決めて、その日から片方だけを使うようにしてください。両方に入力する期間を作ると、数日で片方が止まります。