複数案件の進捗管理をエクセル1枚で|案件横断で見える表の作り方
複数案件の進捗管理をエクセルでやろうとすると、たいてい同じ場所で行き詰まります。案件ごとの表は問題なく作れるのに、案件をまたいで「今週どれが危ないのか」「誰に仕事が寄っているのか」を見ようとした瞬間、手作業が始まる。この記事では、案件が増えたときに表がどう壊れるかを整理したうえで、1枚にまとめる場合の列の設計、切り替えの仕組み、そして表計算では吸収しきれなくなる境目までを順に説明します。
案件が増えて困るのは、件数ではなく見たい軸が増えるから
案件が1つのときは、表は素直です。作業を縦に並べて、担当と期限を書き、終わったら印を付ける。それで足ります。
2つ、3つと増えると、質が変わります。困るのは行が増えることではありません。見たい軸が増えることです。
案件が1つのときに見たいのは、その案件の進み具合だけです。案件が複数になると、次の軸が同時に必要になります。
・案件ごとの進み具合。個別の案件が予定どおりか ・人ごとの負荷。誰が何件抱えていて、今週どこまで詰まっているか ・時期ごとの重なり。同じ週に複数の案件の山が来ていないか ・止まっているものの一覧。案件を問わず、動いていない作業はどれか
案件ごとに表を分けていると、1つ目の軸しか見られません。残りの3つを見るには、分かれた表を手作業で集めることになります。この集める作業が、案件が増えるほど時間を食います。案件が5件あって、それぞれの表を開いて今週の期限を拾うだけで、毎週30分が消えるという話は珍しくありません。
したがって、複数案件の進捗管理で最初に決めるべきなのは、表の作り方ではなくどの軸を主にするかです。案件を主にするのか、人を主にするのか、時期を主にするのか。ここを決めずに作り始めると、どの軸でも見づらい表ができます。
3つの持ち方と、それぞれの限界
複数案件を扱う持ち方は、大きく3つです。順に見ていきます。
| 持ち方 | 向いている状況 | つまずく場所 |
|---|---|---|
| 案件ごとにファイル | 案件の担当が完全に分かれている | 横断して見る手段が無い |
| 1ファイル内で案件ごとにシート | 案件の構成が案件ごとに違う | シートをまたぐ集計の維持 |
| 1枚のシートに全案件 | 作業の形が案件間で似ている | 行数が増えて重くなる |
持ち方1は、案件ごとにファイルを分ける形です。 いちばん自然に始まる形で、担当者ごとに独立して動けるという長所があります。限界は明快で、横断して見る手段がありません。全体を知りたい人は、すべてのファイルを開いて回るか、誰かに集計を頼むことになります。
持ち方2は、1つのファイルの中で案件ごとにシートを分ける形です。 ファイルが1つになるぶん、開く手間は減ります。集計用のシートを1枚足して、各シートの数字を参照すれば、全体の進み具合も見られます。ただし、シートを追加するたびに集計シートの行を足す作業が必要で、忘れるとその案件だけ集計から漏れます。さらに、人ごとの負荷を見ようとすると、全シートを串刺しで集計する必要があり、数式が複雑になります。
シートを分ける形には、もう1つ見落としやすい弱点があります。案件ごとにシートを複製して使っていると、複製元を直しても既存のシートには反映されません。集計式や書式を1か所直したら、すべてのシートに同じ手当てをして回ることになります。案件が10枚あれば10回です。この作業は表を触り慣れた人にしかできないため、その人が不在のときに表が止まります。
持ち方3は、1枚のシートに全案件の作業を並べる形です。 案件名の列を作り、1行1作業とします。行数は増えますが、フィルタと集計だけで4つの軸すべてを見られます。複数案件を扱うなら、原則としてこの形が最も扱いやすくなります。
判断の目安は、案件ごとに作業の形が似ているかどうかです。 似た工程を繰り返す仕事なら、1枚に集約できます。案件ごとに工程がまったく違う場合、共通の列を作れないため、シートを分けるほうが自然です。
案件が増えたときに現れる6つの症状
持ち方を決める前に、いま出ている症状を確認しておくと、どこを直すべきかが分かります。次の5つは、複数案件を表計算で扱っているチームでよく見られます。
症状1は、同じ作業が2か所に書かれていることです。 案件Aの表と、自分用のやることリストの両方に同じ作業が載っている。片方を更新して、もう片方を忘れる。この二重管理は、案件が増えるほど頻度が上がります。原因は、案件の表が自分の仕事を見るのに向いていないことです。担当者の列でフィルタできる形になっていれば、自分用のリストを別に作る必要がなくなります。
症状2は、月曜の朝に状況を集めて回ることです。 各案件の担当者に口頭やチャットで確認し、その内容をとりまとめる人が表に書き写す。この形は、書き写す人が休むと止まります。しかも、聞かれた側は同じことを別の場所でも報告していることが多く、報告が重複しています。
症状3は、案件ごとに表の形が違うことです。 担当者が自分の使いやすい形で作った結果、列の並びも状態の呼び方も案件ごとに違う。この状態では、集めても比べられません。形を揃えるだけで、横断して見る道が開けます。
症状4は、終わった案件の表が残り続けることです。 完了した案件のシートやファイルが混ざっていると、いま動いているものを探すのに時間がかかります。終了時に別の場所へ移す手順を決めておかないと、必ず溜まります。
症状5は、案件の切り替えのたびに探し物をすることです。 どの案件の資料がどこにあるのか、前回の打ち合わせで何を決めたのかを毎回探す。案件が1つなら記憶で足りますが、3つを超えると記憶が混ざります。作業の行に、関連する場所を1つだけ書いておく欄があると、この探し物は大きく減ります。
症状6は、数字を聞かれてから作ることです。 上司や顧客に「全体でどのくらい進んでいるか」と聞かれるたびに集計を組む。この作業に毎回1時間かかっているなら、聞かれる前から見える形にしておくほうが安く済みます。
6つのうち3つ以上に心当たりがあるなら、案件ごとに分かれた持ち方が限界に来ています。集約する形へ移す検討を始める時期です。ただし、集約すれば全部が解決するわけではありません。集約で消えるのは、集める作業と探す作業です。優先順位の判断や、人手が足りないという問題は、表の形を変えても残ります。何が消えて何が残るかを分けて考えると、期待の掛け違いが起きません。
1枚にまとめる場合の列の設計
1枚に集約する場合、列の並びが表の寿命を決めます。次の形を基本にしてください。
・案件名 ・工程または分類 ・作業名 ・担当者 ・状態 ・予定終了日 ・実績終了日 ・優先度 ・備考
ポイントは4つあります。
第一に、案件名は必ず1列目に置きます。 並べ替えの起点になり、フィルタの最初の絞り込みにもなります。案件名は略称ではなく、表記を統一してください。「A社サイト改修」と「A社 サイト改修」が混在すると、フィルタで別物として扱われ、集計が割れます。入力の揺れを防ぐには、データの入力規則でリストから選ばせる形にします。
第二に、状態は決まった語だけを使います。 「未着手」「進行中」「確認待ち」「完了」の4つ程度に絞り、これもリストから選ばせます。自由入力にすると、「着手済」「作業中」「進行中」が混在し、集計できなくなります。
第三に、日付は日付として入れます。 文字列で入れると、期限の比較も差の計算もできません。入力の揺れを防ぐために、日付の列にも入力規則をかけて、日付以外を受け付けない設定にしておくと確実です。担当者が「9月上旬」と書き込むと、その行だけ集計から外れます。
第四に、行数が増える前提で作ります。 案件5件、各案件30行で150行です。この規模なら問題ありませんが、案件が20件に増えると600行になります。範囲をテーブルに変換しておけば、行を足したときに数式と書式が自動で伸びるため、後から範囲を直す作業がなくなります。
列を増やしたくなったときの判断基準も決めておくと、表が横に伸びずに済みます。基準は単純で、その列を使って何かを決めるかどうかです。決めるのに使わない情報は、備考にまとめて書けば足ります。優先度、見積工数、関連資料の場所。これらは便利そうに見えますが、埋まらないまま残ることが多い列です。実際に埋まるかどうかは、1か月使ってみれば分かります。埋まらなかった列は、遠慮なく消してください。
完了した行の扱いも先に決めます。完了のまま残し続けると行が増える一方なので、月に一度、完了済みの行を別のシートへ移す運用にします。移した行は消さず、履歴として積んでおくと、次の見積もりの材料になります。
見たい軸ごとの切り替え方
1枚にまとめた表から、4つの軸を取り出す方法です。難しい関数は要りません。
案件ごとに見る場合。 案件名の列でフィルタをかけます。表をテーブルにしていれば、見出しの矢印から選ぶだけです。スライサーを設定しておくと、ボタンで切り替えられるようになり、操作を教える手間が減ります。
人ごとに見る場合。 担当者の列でフィルタをかけるか、ピボットテーブルを作ります。行に担当者、列に状態を置いて件数を数えると、誰が何件抱えていて、そのうち何件が進行中かが一目で出ます。この表は、案件をまたいだ負荷を見るのにいちばん効きます。
時期ごとに見る場合。 予定終了日でフィルタをかけ、今週の範囲だけを表示します。数式で自動的に抽出したい場合は、=FILTER(A2:I500,(F2:F500>=TODAY())*(F2:F500<=TODAY()+7)) のように書けば、今週締め切りの行だけが別の場所に並びます。この関数が使えないバージョンでは、作業用の列に =IF(AND(F2>=TODAY(),F2<=TODAY()+7),1,"") と入れてフィルタする方法で代替できます。
止まっているものを見る場合。 状態が進行中のまま、実績終了日が空欄で、予定終了日を過ぎている行を抽出します。条件付き書式で色を付けておけば、フィルタをかけなくても目に入ります。=AND($E2="進行中",$F2<TODAY()) のような条件です。
案件と人を掛け合わせて見る場合。 ピボットテーブルの行に担当者、列に案件名を置くと、誰がどの案件にどれだけ関わっているかが表になります。1人が4件以上の案件に同時に関わっていると、切り替えの負担が大きくなり、どの案件でも進みが遅くなります。この表は、人を増やすべきか、案件の開始をずらすべきかを判断するときの材料になります。
表示を軽く保つ工夫も要ります。 条件付き書式のルールが多い表は、フィルタをかけるたびに再計算が走って重くなります。ルールは5個程度に抑え、適用範囲も必要な列だけに限ってください。全列全行に当てたルールが3つあるだけで、開くのに数秒かかるようになります。
この4つの見方を、それぞれ別のシートに作り置きしておくと、毎回作る手間がなくなります。元の表は1つ、見る形は複数、という構造にしておくのが要点です。見る形を増やすたびに元の表を分けてしまうと、また同じ問題が起きます。
週次と月次で、見る場所を分ける
同じ表でも、週に一度見る内容と、月に一度見る内容は違います。分けておかないと、毎週の打ち合わせが長くなり、やがて開かれなくなります。
週次で見るのは、直近の詰まりだけです。 今週締め切りの作業、止まっている作業、そして今週始まる予定の作業。この3つに絞れば15分で終わります。案件ごとの全体像は、週次では見ません。
月次で見るのは、傾向です。 案件ごとの遅れの累積、人ごとの負荷の偏り、予定と実績の差が大きい工程の種類。ここで初めて、割り当ての見直しや、次の案件の見積もりの調整といった話になります。
この2つを混ぜないでください。 週次で傾向の話を始めると、目の前の詰まりが放置されます。月次で個別の作業の話を始めると、全体の傾向が見えないまま終わります。
分けるための仕掛けは簡単で、週次用のシートと月次用のシートを別に作り、それぞれに必要な集計だけを置いておくだけです。元になる表は1つのままです。見る目的ごとに画面を用意しておくと、毎回フィルタを組み直す手間がなくなり、開かれる回数が増えます。
数字を信じられる状態に保つ
複数案件の表がいちばん壊れるのは、数字が信じられなくなったときです。一度でも「この表は当てにならない」と思われると、以後は誰も更新しません。
信用を保つために効くのは、次の3つです。
第一に、最終更新の日時を表の上に書きます。 誰がいつ更新したのかが分かれば、古い情報を見て判断する事故が減ります。手で書くのが面倒なら、更新のたびに日付を入れる欄を1つ作るだけでも構いません。
第二に、埋まっていない箇所を隠しません。 空欄のままの担当者や期限は、色を付けて目立たせます。埋まっているように見せかけた表より、空欄が見える表のほうが信用されます。
第三に、数字の出どころを1つにします。 同じ「進捗率」が2つのシートに違う数字で載っていると、どちらが正しいのかを確かめる作業が発生します。集計は元の表から自動で計算し、手で書いた数字を残さないことです。
この3つは地味ですが、複数案件を扱う表では効き方が大きくなります。案件が1つなら、間違いはその案件の中で完結します。案件が5つあると、1か所の間違いが5つの判断に影響します。
案件横断で本当に見るべき3つの数字
複数案件の表を作ったあと、何を見るかが決まっていないと、表は眺めるだけのものになります。実務で効くのは次の3つです。
1つ目は、人ごとの進行中の件数です。 同時に進行中の作業が5件を超えている人がいたら、その人はどれも進められていない可能性が高くなります。件数が多いこと自体が問題なのではなく、切り替えの回数が増えることで1件あたりの進みが遅くなるためです。この数字が見えるだけで、割り当ての判断が変わります。
2つ目は、今週締め切りの件数です。 今週の負荷が読めていれば、無理なものを先に動かせます。締め切り当日に「間に合いません」と言われるのは、この数字を誰も見ていない状態です。
あわせて、進行中の作業に上限を設けるという考え方もあります。1人が同時に進行中にできる作業を3件までと決め、それ以上は未着手のまま置く。制限があると、新しい作業に手を出す前に、いま抱えているものを終わらせる動きになります。表計算では数を数えて注意するしかありませんが、数えられるようにしておくだけでも効果があります。
3つ目は、止まっている日数です。 状態が変わらないまま何日経過したかを見ます。=IF($E2="進行中",TODAY()-$D2,"") のように、着手日からの経過日数を出しておくと、10日以上動いていない作業が浮かび上がります。止まっている作業は、たいてい待ちが発生しているか、着手できない理由があります。遅れの原因はほとんどここに隠れています。
この3つは、案件ごとの表では絶対に見えません。案件をまたいで1枚にまとめる価値は、まさにここにあります。
案件を追加するときと、終了するときの手順
複数案件の表を長く使うには、案件の出入りの手順を決めておく必要があります。ここが決まっていないと、表は数か月で崩れます。
案件を追加するときは、ひな形から行を複製します。 案件が始まるたびにゼロから作業を書き出していると、書き出す人によって粒度も呼び方も変わります。よく使う工程を並べたひな形のシートを1枚用意し、そこから必要な行をコピーして案件名を入れ替える形にすると、形が揃います。ひな形は完璧である必要はなく、10行程度の骨格があれば十分です。
入力規則のリストも更新します。 案件名をリストから選ばせる形にしている場合、新しい案件名をリストに足す作業を忘れると、担当者が入力できません。リストの元になる範囲をテーブルにしておけば、追加した名前が自動でリストに反映されます。
案件を終了するときは、その案件の行をまとめて履歴シートへ移します。 完了した行を残したままにすると、フィルタのたびに終わった案件が候補に出てきます。移すときは、切り取りと貼り付けではなく、フィルタで絞ってからコピーし、元の行を削除する手順のほうが安全です。
終了時に、実績を振り返る時間を15分取ります。 予定と実績の差がいちばん大きかった作業を3つ挙げ、その理由を履歴シートの備考に書いておきます。次に同じ種類の案件を始めるとき、この記録が見積もりの精度を上げます。案件が終わった直後にしか書けない情報なので、後回しにすると永遠に書かれません。
年に一度は、表そのものを棚卸しします。 使われていない列、更新されていない集計シート、意味を思い出せない色分け。これらを削るだけで、表は軽くなります。増やすのは簡単で、減らすのは決断が要ります。減らす機会を予定として置いておいてください。
共有と同時編集で必ずぶつかる壁
1枚にまとめると、今度は全員が同じファイルを触ることになります。ここで運用の壁に当たります。
複数人で1つのファイルを扱う仕組みには2つの系統がありますが、古いほうの仕組みには制限があります。Microsoft は次のように案内しています。
"共有ブック" は、1 つのブック上で複数のユーザーと共同作業ができる以前の機能です。 この機能には多くの制限があるため、共同編集に置き換えられました。 出典: support.microsoft.com
同じページには、共有ブックの状態でサポートされない項目の一覧も載っています。表の作成や挿入、条件付き書式の追加や変更、グラフやピボットグラフの作成や変更、データの入力規則の追加や変更などが含まれます。ここまで説明してきた設計は、テーブル、条件付き書式、ピボットテーブル、入力規則の4つに支えられています。つまり共有ブック方式を選ぶと、設計の柱がほぼ全部使えません。
新しいほうの仕組みである共同編集を使う場合は、条件があります。Microsoft 365 のサブスクリプション、OneDrive や SharePoint Online 上への保存、そして .xlsx、.xlsm、.xlsb のいずれかのファイル形式です。Microsoft がホストしていない環境の SharePoint では共同編集がサポートされないことも明記されています。社内のファイルサーバーに置いて全員で開く運用では、この仕組みは使えません。
社外の関係者が絡む場合は、さらに条件が厳しくなります。取引先にファイルを渡す運用では、渡した時点で情報が止まり、相手が更新した版を戻してもらって統合する作業が発生します。統合の途中で行が重複したり、こちらが更新した内容が上書きされたりする事故は、複数案件を扱っていると必ず起きます。社外を含めて同じ情報を見たいなら、ファイルの受け渡しではなく、同じ場所を見てもらう形にする必要があります。その場合、権限をどう分けるか、どこまで見せるかを先に決めておいてください。
条件を満たせない場合、現実的な運用は次のどちらかになります。1つは、更新を1人に集約する形。もう1つは、担当者ごとに入力用のファイルを分けて、定期的に1つに集める形です。前者は集約する人の作業が人数分だけ増え、後者は集める作業が毎週発生します。案件5件、関係者8人あたりから、どちらの方式もかなりの負担になります。
表計算で回る規模と、そうでない規模
ここまでの内容から、続けやすい条件が見えてきます。
表計算のままで回る条件は次のとおりです。
・案件が5件程度まで ・全体の作業が200行程度まで ・入力する人が3人以内で、全員がパソコンの前にいる ・案件ごとの工程の形が似ている
この条件のうち、いちばん効くのは3つ目です。入力する人が少ないうちは、多少作りが荒くても回ります。人が増えると、入力の揺れと同時編集の壁が同時に効いてきます。人数が増える見込みがあるなら、その前に形を決めておくほうが移行は楽です。
この範囲であれば、表計算のほうが自由度が高く、費用もかかりません。切り口を変えたいときにピボットを作り直せばよく、専用の道具にありがちな「その見方ができない」という制約もありません。動いているものを無理に替える必要はありません。
次の状態が出てきたら、別の形を考える時期です。
・案件が10件を超え、案件名のフィルタを開くのが億劫になった ・更新が週末にまとめて行われ、平日の表が実態と合っていない ・関係者が社外にも広がり、ファイルの受け渡しが発生している ・誰がいつ更新したかを追えず、数字の食い違いを解決できない ・表を維持するための作業が、週に1時間を超えている
このうち、最後の項目が判断の決め手になります。表は仕事を進めるための道具であって、維持することが仕事ではありません。維持の時間が本来の仕事を圧迫し始めたら、道具の形が合っていないという合図です。
移す場合も、いきなり全部を動かす必要はありません。動いている案件のうち1つを選び、2週間だけ並走させます。見るのは、担当者が自分で状態を動かしたかどうかです。動いていれば、残りの案件を順に移せます。動いていなければ、道具ではなく運用の設計に原因があるので、先にそちらを直します。並走の期間が長引くと情報が二重になるため、区切りは先に決めておいてください。
ボード型のタスク管理は、この問題に対して別の構造を取ります。案件ごとにボードを1枚持ち、作業をカードにして状態の列を横に並べる。案件をまたいだ表示では、担当者ごとに割り当てられたカードを一覧できます。カードを動かした時刻は自動で残るため、実績の入力そのものが要りません。集計式の維持という仕事も消えます。
道具を選ぶときに確認したいのは、区切りの単位です。案件の数だけボードを作りたいのに、無料の範囲がボード3枚までという設計だと、案件が増えた時点で行き詰まります。逆に、必要な表示形式が上位プランに閉じ込められていると、試す段階で判断できません。機能で絞らず、区切るのは人数とボードの数だけという考え方であれば、最初から必要な形で試せます。何が使えるかはできることに、区切りの条件は料金にまとまっています。
設計思想の違いは比較の一覧に整理してあります。付箋を並べる形を出発点にした作りとの違いはTrelloとの比較、仕事の割り当てと進行を主軸に置いた作りとの違いはAsanaとの比較、表計算に近い感覚で表を組む作りとの違いはmonday.comとの比較、課題管理と開発の記録を重ねる作りとの違いはBacklogとの比較、国内の板型の道具との違いはJootoとの比較にあります。すでにボードがある場合の移し替えはTrelloからの移行、社外の人を入れるときの権限やデータの扱いは安全性の考え方、残る疑問はよくある質問を確認してください。
最後に、道具を替えても解決しないことを書いておきます。案件をまたいだ優先順位が決まっていない場合、どの道具を使っても同じ混乱が起きます。3つの案件が同時に急いでいるとき、何を後回しにするかを決めるのは人の判断であり、表の仕事ではありません。表ができるのは、判断に必要な材料を、探さずに見られる形で置いておくことだけです。逆に言えば、材料が揃っていれば判断は速くなります。複数案件の表を作る目的は、そこに尽きます。
Q1. 複数案件は案件ごとにシートを分けるべきですか、1枚にまとめるべきですか?
案件ごとの工程の形が似ているなら、1枚にまとめて案件名の列で切り替えるほうが扱いやすくなります。人ごとの負荷や今週の締め切りを案件をまたいで見られるためです。案件ごとに工程がまったく違い、共通の列を作れない場合はシートを分け、集計用のシートを別に用意する形になります。
Q2. 案件をまたいで誰が何件抱えているかを見るには?
1枚にまとめた表からピボットテーブルを作り、行に担当者、列に状態を置いて件数を数えるのが簡単です。同時に進行中の作業が5件を超えている人がいたら、割り当てを見直す合図になります。シートが分かれている場合は串刺しの集計が必要になり、維持が重くなります。
Q3. 全員で同じファイルを同時に更新できますか?
共同編集を使えば可能ですが、Microsoft 365 のサブスクリプション、OneDrive や SharePoint Online への保存、対応するファイル形式という条件があります。社内のファイルサーバーに置く運用では使えません。古い共有ブック方式は条件付き書式やテーブル、ピボットグラフが使えなくなるため、進捗表には向きません。
Q4. 何案件くらいまでエクセルで管理できますか?
案件が5件程度、全体で200行程度、入力する人が3人以内であれば十分に回ります。案件が10件を超える、更新が週末にまとめて行われる、社外との受け渡しが発生する、表の維持に週1時間以上かかる、といった状態が出てきたら別の形を検討する時期です。