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引き継ぎ書のテンプレート|後任が最初の1週間で迷わない書き方

2026年9月25日 ・ Pinateca編集部

引き継ぎ書のテンプレートを探している人の多くは、来週から誰かが抜けることが決まっていて、時間がありません。だから、項目の多い立派な雛形を渡されても埋まりません。この記事では、引き継ぎ書に本当に必要な項目を、後任が最初の1週間で見る順に並べ直します。あわせて、退職・異動・産休育休・業務委託の交代でどこを変えるか、どの順番で作れば半日で終わるか、無料のテンプレートを使うときにどこを直すかまでを書きます。目標は、立派な書類を作ることではなく、後任が誰にも聞かずに最初の5日間を乗り切れる状態を作ることです。

引き継ぎ書が役に立たない理由は、たいてい2つ

現場で「引き継ぎ書はあったけど使えなかった」と言われるとき、原因はほぼ2つに絞られます。

ひとつは、書いた人の頭の順番で並んでいることです。前任者は業務の全体像を知っているので、業務の分類から書き始めます。ところが後任が最初に必要なのは、全体像ではありません。月曜の朝9時に何をすればいいか、パスワードはどこにあるか、困ったときに誰に聞くか。この3つです。全体像は3日目でも間に合います。

もうひとつは、粒度が揃っていないことです。「経費精算の処理」と1行で書かれた項目と、「請求書の宛名を確認する」と細かく書かれた項目が並んでいると、後任はどちらが重い仕事なのか判断できません。結果として、全部を同じ重さで読むことになり、読み切れずに閉じます。

この2つを避けるだけで、引き継ぎ書の役に立ち方はかなり変わります。逆に言えば、項目の数を増やすことは効果がありません。よく聞くのは、30ページの引き継ぎ書を渡されたけれど、結局3ページ目までしか読まれなかった、という話です。

引き継ぎ書とマニュアルは、別のもの

作り始める前に、区別を1つ入れておきます。引き継ぎ書と業務マニュアルは役割が違います。

引き継ぎ書は、「この人が抱えていた仕事を、誰がどう受け取るか」の一覧です。担当している業務、相手先、期限、進行中の案件、注意点が並びます。読む人は決まっていて、読む期間は数週間です。

業務マニュアルは、「ある業務をどうやるか」の手順書です。読む人は将来の誰かで、読む期間は年単位です。

業務の目的・全体フロー・手順の詳細・よくあるトラブルと解決方法・関連資料など、1つの業務をSTEP形式で深く掘り下げて文書化するテンプレートです。社内にマニュアルが整備されていない業務を初めて文書化する際にも使えます。複雑な業務や後任者が業務未経験の場合は、引き継ぎ書とあわせて作成しましょう。 出典: biz.moneyforward.com

この2つを1つの書類にまとめようとすると、必ず終わりません。手順を細かく書き始めた瞬間に、分量が数倍になるからです。時間が無いときの正しい判断は、引き継ぎ書だけを完成させて、マニュアルは「あとで作る対象の一覧」だけを残すことです。一覧さえあれば、後任が必要になった順に自分で作れます。

引き継ぎ書に入れる9つの項目

項目は9つで足ります。多くしないことが、埋まる書類にするコツです。

1つめは、担当業務の一覧です。業務名と、頻度(毎日・毎週・毎月・不定期)と、だいたいの所要時間を並べます。所要時間があると、後任が自分の1週間を組めます。

2つめは、締切のある仕事のカレンダーです。毎月10日の支払い、毎週火曜の定例、四半期の報告。日付が決まっているものだけを別に並べます。ここを見落とすと、最初の月で必ず事故が起きます。

3つめは、進行中の案件です。案件名、相手先、今どの段階にあるか、次に何をするか、いつまでに。ここが引き継ぎ書の中心です。止まっている案件も、止まっている理由と一緒に書きます。

4つめは、関係者の一覧です。社内外の名前と、役割と、連絡の取り方。「この件はこの人に聞けば分かる」が書いてあるかどうかで、後任の最初の1週間の負荷が変わります。

5つめは、権限とアカウントです。どのシステムに入れる必要があるか、誰に申請するか。パスワードそのものを書類に書かないこと。書く場所は、社内で決められた保管の仕組みに限ります。

6つめは、定型のやりとりです。毎月同じ相手に送るメール、決まった書式の報告。文面の雛形がどこにあるかを書きます。

7つめは、注意点と地雷です。「この取引先は電話よりメールを好む」「この作業は月末にやると承認が間に合わない」といった、書類に残っていない知恵です。実はここがいちばん価値があります。

8つめは、未完了の宿題です。やろうと思っていたけれどできなかったこと。引き継ぐ側は書きにくいところですが、書かないと後任が同じ問題に半年後にぶつかります。

9つめは、あとで作るべきマニュアルの一覧です。手順が複雑で口頭では伝えきれないものを挙げておきます。ここに挙げたものを全部作ろうとしないこと。後任が実際に困った順に作れば、半分は作らずに済みます。

書かないものも決めておきます。パスワードと、個人の評価に関わる話と、伝聞の悪口です。パスワードは保管の仕組みに置き、その場所だけを書きます。評価の話は引き継ぎ書に載せる情報ではありません。人物評は、業務に必要な範囲(連絡の取り方の好み、決裁の早さ)に留めて、感情の混ざる表現は避けてください。引き継ぎ書は、書いた本人が想定しない相手に読まれることがあります。

この9つのうち、時間が無いときに優先するのは2番と3番と7番です。この3つがあれば、後任は最初の1週間を誰にも聞かずに乗り切れます。

後任が見る順に並べ直す

項目を揃えたら、順番を後任の目線に直します。書き手の頭の順番のままにしないことが、この記事で最も伝えたい点です。

最初のページは、最初の1週間にやることだけです。月曜から金曜まで、日付と時刻の決まっているものを並べます。「火曜10時、定例会議に出る。資料は前日までに共有フォルダへ」といった粒度です。ここだけで1ページに収めます。

2ページ目は、今動いている案件です。数が多い場合は、期限の近い順に並べます。名前の五十音順に並べたくなりますが、後任が知りたいのは順番であって、探しやすさではありません。

3ページ目以降に、全体像と定型業務を置きます。頻度の低いものは後ろで構いません。年に1回の作業は、その時期が来るまで読まれなくてよいものです。

最後に、関係者と注意点を置きます。ここは辞書として使われる部分なので、後ろにあっても問題ありません。ただし、目次からすぐ飛べるようにしておきます。

この並べ方にすると、引き継ぎ書を渡すときの説明も楽になります。「最初の1ページだけ今日読んで。あとは必要になったときに開いて」と言えるからです。1ページだけ読めばいい、と言える書類は実際に読まれます。

シーンによって、書く重さを変える

引き継ぎと言っても、状況によって必要な厚みが違います。

引き継ぎのシーンによって、引き継ぎ書に記載すべき情報の優先度が異なります。退職時は業務の全量を漏れなく文書化することが最優先ですが、産休・育休では復帰後に自分でも使える形で必要最低限にする方法もあります。シーンに合ったテンプレートを選ぶことで、質と作成スピードの両方が上がります。 出典: biz.moneyforward.com

退職の場合は、戻ってくる前提がありません。聞き直せる相手がいなくなるので、抜けを作らないことが最優先です。担当業務の一覧は、細かくても全部書きます。

異動の場合は、社内に残るので聞き直せます。ただし、聞き直せることに甘えると、結局その人が前の仕事を引きずります。新しい部署に移ってからも月に何度も呼ばれる、という状態は、本人にも会社にも損です。異動では「聞かれたくないこと」を優先して書くのが正解です。

産休や育休の場合は、自分が戻ってくる前提があります。引用にもある通り、復帰後に自分でも使える形にしておくのが実用的です。全量を書くより、動いている案件と関係者を厚く、定型業務は薄く。復帰したときに自分が一番助かる形を想像して書くと、過不足が決まります。

業務委託の相手が交代する場合は、契約の範囲を明記する必要があります。どこまでが依頼の範囲か、成果物は何か、検収は誰がするか。ここが曖昧なまま人だけ替わると、話が揉めます。なお、委託の相手に業務の進め方をどこまで指示してよいかは、契約の内容と実際の働き方で判断が変わります。線引きが気になる場合は、所管の窓口や専門家に確かめてから決めてください。

半日で作る手順

時間が無いという前提で、順番を決めます。

最初にやるのは、棚卸しです。自分の1か月を振り返って、やった作業を思い出すままに書き出します。順番も分類も気にしません。カレンダーとメールの送信箱を見ながら書くと、抜けが減ります。ここに30分。

次に、分類します。書き出したものを、締切のあるもの、進行中の案件、定型業務、不定期の4つに分けます。この時点で、どれが重いかが見えてきます。ここに20分。

3つめに、進行中の案件だけを詳しく書きます。今どの段階か、次に何をするか、いつまでに、誰と。ここがいちばん時間がかかりますが、いちばん価値があるところです。案件の数にもよりますが、1件あたり10分を見ます。

4つめに、注意点を書き足します。分類した一覧を上から眺めて、「これは知らないと困る」と思うところにだけ1行ずつ添えます。全部に書こうとしないこと。ここに30分。

最後に、並べ替えます。後任が見る順に章を入れ替えて、最初の1週間のページを作ります。ここに20分。

この手順なら、案件が5件程度のポジションで半日です。ポイントは、最初から完成形の順番で書こうとしないことです。書きながら並べようとすると、手が止まります。

もう1つのコツは、最初の棚卸しを文章で書かないことです。箇条書きの単語だけで出します。「請求書」「月次報告」「A社定例」といった単語の羅列で構いません。文章にしようとした瞬間に速度が落ち、1時間経っても半分も出ません。並べてから説明を足すほうが、結果的に抜けが少なくなります。

時間がどうしても取れない場合の最小構成も書いておきます。締切のカレンダーを1枚と、進行中の案件の一覧を1枚。この2枚だけでも、引き継ぎ書が無い状態とは大きく違います。注意点は口頭で補い、あとで後任に書き足してもらう形にします。ゼロと2枚の差は、2枚と20枚の差よりずっと大きいです。

無料のテンプレートを使うときに直すところ

インターネット上には、無料で配られている引き継ぎ書の雛形が数多くあります。使うこと自体はおすすめできますが、そのまま使うと埋まりません。

本記事では、シーン別・職種別に対応した業務引継書テンプレートを17種類、記入例つきで無料配布しています。あわせて、引き継ぎ書の書き方・作り方の流れや、後任者に伝わりやすくするためのコツと注意点も解説します。 出典: biz.moneyforward.com

記入例が付いているものを選ぶのが、まず第一の基準です。空欄だけの雛形は、何を書けばよいか分からず止まります。

そのうえで、3つを直します。

ひとつ、使わない欄は消します。自分の業務に無い項目を残しておくと、後任が「空欄なのは書き忘れなのか、該当なしなのか」で迷います。消すか、「該当なし」と書くか、どちらかにします。

ふたつ、社内の呼び方に置き換えます。雛形の言葉づかいのまま使うと、社内では誰も使っていない用語が並びます。画面に出ている名前、社内で通じる名前に直してください。

みっつ、並び順を後任目線に直します。多くの雛形は、業務の分類順に並んでいます。前に書いた通り、最初の1週間のページを先頭に持ってくるだけで、使われ方が変わります。

ファイル形式も一言。表計算の形式は一覧に向き、文書の形式は説明に向きます。項目が多いなら表計算、注意点を長く書くなら文書。両方を1つのファイルに詰め込むと、どちらも読みにくくなります。

伝わる書き方のコツ

同じ内容でも、書き方で伝わり方が変わります。実務で効くものを挙げます。

主語を書くこと。「確認する」ではなく「経理の担当者が確認する」と書きます。主語が抜けていると、後任は自分がやるのかどうかが分かりません。引き継ぎ書でいちばん多い読み違いは、ここから起きます。

判断の基準を書くこと。「必要に応じて上司に確認」と書いても、後任には必要な場合が分かりません。「金額が10万円を超えるときは上司に確認」と書けば、判断できます。基準の数字を思い出せないときは、「前任者はだいたいこのあたりで確認していた」と書いておくだけでも役に立ちます。

例外を書くこと。定型業務の説明は、9割の場合を書いて終わりがちです。実際に後任が困るのは、残りの1割のほうです。「月末が土日にかかる月は、前倒しで処理する」といった例外を1行入れておきます。

失敗談を書くこと。過去に起きたトラブルと、そのときどうしたかを短く残します。成功した手順より、失敗した手順のほうが再現性があります。

そして、句点で文を終えて改行すること。1行に2文を詰め込まないだけで、読む速さが変わります。引き継ぎ書は、忙しい人が斜めに読む書類です。

画面に出ている名前で書くことも忘れないでください。社内のシステムで使っている略称や、自分だけが使っている呼び方で書くと、後任はその画面を探すところから始めます。メニューに表示されている通りの名前を書くだけで、質問が1つ減ります。

よくある失敗と、その直し方

作ったあとに起きることも並べておきます。

書いただけで渡さない、が最も多い失敗です。ファイルを共有フォルダに置いて「入れておきました」で終わると、読まれません。渡すときは、最初の1週間のページを一緒に開いて、15分だけ口頭で補足する。この15分があるかどうかで、その後の質問の数が変わります。

更新されないのも定番です。引き継ぎ書は渡した時点から古くなり始めます。1か月後には、案件の状況が変わっています。渡したあとも触れる場所に置いておくか、進行中の案件については書類ではなく板の上で見られるようにしておくのが実用的です。

口頭で全部説明しようとするのも危ないところです。並走期間に毎日1時間ずつ説明しても、後任は覚えきれません。説明は書類を補うためのもので、書類の代わりにはなりません。逆に、説明の時間を確保できないからといって、書類の分量を倍にするのも効きません。

後任が決まる前に書き始めない、も見落としがちな失敗です。誰が受け取るか決まっていないと、どこまで丁寧に書けばよいか決まりません。ただ、後任が決まるのを待っていると、たいてい時間が足りなくなります。対処は、後任が未定のうちに棚卸しと分類まで進めておくことです。この2つは誰が受け取るかに関係なく作れます。決まってから、相手の経験に合わせて注意点の厚みを調整すれば間に合います。

引き継ぎ書を1人で抱え込むのも、思ったより多い失敗です。前任者が書いたものを誰もレビューしないまま渡すと、本人にとって当たり前すぎて書かれなかった項目が、そのまま抜けます。同じ部署の誰かに15分だけ読んでもらい、「これ、どうやるのか書いてある」と聞いてもらうだけで、抜けが2つか3つは見つかります。

そして、完璧を目指して間に合わないこと。80点の引き継ぎ書を2週間前に渡すほうが、100点を前日に渡すより役に立ちます。読んで質問する時間が残るからです。

職種によって、厚く書く場所が変わる

同じ9項目でも、仕事の種類によってどこに紙幅を割くかが違います。雛形をそのまま埋めると、この配分が崩れます。

営業の引き継ぎで重いのは、関係者と進行中の案件です。相手先の担当者が誰で、どういう経緯で今の話になっているか。ここが抜けると、後任が最初の訪問で信用を落とします。逆に、定型の事務手続きは薄くてかまいません。社内の誰かに聞けば分かるからです。取引先ごとに、過去に断られた提案と、その理由を1行ずつ残しておくと、後任が同じ提案を持っていく事故を防げます。

経理や総務の引き継ぎで重いのは、締切のカレンダーと例外です。毎月の支払い、年に数回の申告、月末が土日にかかるときの前倒し。日付が動くものを書き漏らすと、そのまま事故になります。関係者の一覧は、社内の承認ルートが中心になります。

情報システムの引き継ぎで重いのは、権限とアカウントです。どのシステムの管理者を誰が持っているか、契約の更新がいつか、緊急時に誰へ連絡するか。ここは引き継ぎ書に書くというより、正確な一覧を別に作って場所を書いておく形が現実的です。パスワードそのものを引き継ぎ書に書かないこと、これは職種を問わず共通です。

制作や開発の引き継ぎで重いのは、進行中の案件の「なぜそうなっているか」です。仕様がその形になった経緯、途中で捨てた案、相手が強くこだわっている点。結論だけを引き継ぐと、後任が良かれと思って直したところが、実は相手の希望だった、という事故が起きます。

自分の職種でどこが重いか分からないときは、後任から聞かれそうな質問を10個書き出してみてください。書き出した質問の偏りが、厚く書くべき場所を教えてくれます。

引き継ぎがうまくいったかを、どう確かめるか

やりっぱなしにすると、次の引き継ぎも同じ苦労をします。終わったあとに見る目安を3つ挙げます。

ひとつは、前任者に連絡が行った回数です。並走期間が終わったあと、後任から前任者に質問が飛んだ回数を数えます。多いなら、書類に足りない部分があったということです。内容を見れば、どの項目が薄かったかも分かります。退職した相手に連絡が行っている場合は、次回の書き方を必ず直してください。

ふたつめは、最初の1か月で起きた抜けの数です。締切を逃した、相手への連絡が遅れた、社内の承認が間に合わなかった。こうした出来事が起きた場合、その原因が引き継ぎ書に書いてあったかどうかを確かめます。書いてあったのに起きたなら、渡し方の問題です。書いていなかったなら、項目の問題です。

みっつめは、後任が自分の言葉で業務を説明できるかどうかです。1か月後に「この仕事を誰かに説明するとしたら、どう説明する」と聞いてみる。説明できるなら引き継ぎは成功しています。説明できないなら、手順は覚えたけれど目的が伝わっていない状態で、これは半年後に判断を誤る形で表に出ます。

この3つを一度でも確かめておくと、次に誰かが抜けるときの引き継ぎ書が、今回よりはっきり良くなります。引き継ぎは組織の中で何度も起きるものなので、1回ごとに書き方を残しておくほうが得です。

渡したあとの2週間を設計する

引き継ぎは書類を渡して終わりではありません。むしろ、渡してからが本番です。

最初の週は、後任が実際にやって、前任者が横で見る形にします。説明を聞いて理解した気になっていても、手を動かすと詰まります。詰まったところがそのまま、引き継ぎ書に足すべき内容です。

2週目は、後任が1人でやって、終わったあとに前任者が確認する形にします。質問を受け付ける時間を1日1回、15分だけ決めておくと、お互いの集中が切れません。随時聞いてよいことにすると、前任者の仕事が進みません。

この2週間で出た質問は、必ず書き足します。質問された内容は、次の後任も必ず聞くものだからです。ここを書き足しておくと、次の引き継ぎが半分の時間で済みます。

並走の期間が取れない場合もあります。その場合は、最初の1か月のあいだ、週に1回30分だけ連絡が取れる約束をしておくのが現実的です。退職後の相手に何度も連絡するのは気が引けるので、回数と時間を先に決めておくほうがお互いに楽です。

書類から、板の上へ

最後に、引き継ぎを書類だけで完結させないという話をします。

引き継ぎ書の9項目のうち、書類に向いているのは注意点・関係者・定型のやりとり・あとで作るマニュアルの一覧です。これらは時間が経っても変わりません。

一方で、進行中の案件と締切のある仕事は、書類に書いた瞬間から古くなります。ここを書類で持つ限り、引き継ぎのたびに書き直す作業が発生します。日頃から案件がカードとして並んでいて、期限と担当と進行状況が入っていれば、引き継ぎで作る書類は「注意点と関係者」だけになります。

ボードの種類ごとに何ができるかはできることにまとまっています。カードの中にサブタスクや説明を持たせ、経緯をコメントとして残せる作りであれば、引き継ぎのときに掘り起こす手間が減ります。決まったことはカードに、経緯はコメントにという形が日常で回っていれば、引き継ぎ書は薄くて済みます。

人が入れ替わるときに効くのが、権限の切り替えです。前任者の権限を外し、後任に同じ範囲を与える。社外のパートナーが絡む案件では、見せる範囲を絞る設定も要ります。誰がいつ何を変えたかの記録が残るかどうかも含めて、安全性の考え方で扱いを確かめられます。

いま表計算で案件を管理していて、これを機に移したいという場合は、移行で何が落ちるかを先に見ます。落ちて困るのは添付とコメントです。Trelloからの移行では、ボード・リスト・カード・ラベル・チェックリスト・添付・コメントまで運ぶ形が説明されています。他の道具との違いは比較の一覧にまとまっていて、個別にはNotionとの比較やBacklogとの比較から見られます。Notionのように文書と一覧を同じ仕組みで扱う道具は、マニュアルを厚く持つ仕事に向きます。案件の数が多く、毎日状態が動く仕事なら、板を中心に置く道具が楽です。

費用の面では、引き継ぎのためだけに道具を入れるのは本末転倒です。ただ、日常の管理に使っているものが引き継ぎにも効くなら、判断は別になります。料金を見ると、5人・ボード10個までを無料とし、6人目や11個目から1人あたり月500円(年払いなら400円・いずれも税抜)という切り方です。人の入れ替わりが多い組織ほど、記録が自動で残る形の価値が効いてきます。導入前の疑問はよくある質問にまとまっていて、無料の範囲やメンバーの招待の仕方が並んでいます。

判断の順番を整理して締めます。引き継ぎ書には9項目を入れ、後任が見る順に並べる。時間が無いなら、締切・進行中の案件・注意点の3つを優先する。無料の雛形は、記入例付きのものを選んで、使わない欄を消して社内の言葉に直す。渡したあとの2週間で出た質問は、必ず書き足す。そして、毎回書き直すことになる部分は、書類ではなく日常の板の上に置く。この5つで、次の引き継ぎは今回の半分の時間で終わります。

Q1. 引き継ぎ書には最低限、何を書けばよいですか?

時間が無いときに優先するのは3つです。締切の決まっている仕事のカレンダー、進行中の案件(今どの段階で次に何をするか)、そして書類に残っていない注意点。この3つがあれば、後任は最初の1週間を誰にも聞かずに乗り切れます。担当業務の全量や定型業務の手順は、その後で足せば間に合います。

Q2. 無料のテンプレートをそのまま使ってもよいですか?

記入例が付いているものを選んだうえで、3か所を直してください。使わない欄を消すこと、社内で実際に使っている呼び方に置き換えること、並び順を後任が見る順に変えることです。空欄だけの雛形は何を書けばよいか分からず手が止まり、分類順のままだと最初の1週間に必要な情報が後ろに埋もれます。

Q3. 退職と産休では、書く内容を変えるべきですか?

変えたほうが速く終わります。退職は聞き直せる相手がいなくなるため、業務の全量を漏れなく書くことが優先になります。産休や育休は本人が戻ってくるので、復帰後に自分でも使える形にして、動いている案件と関係者を厚く、定型業務は薄くする書き方があります。異動の場合は、あとで何度も呼ばれないよう「聞かれたくないこと」から書くのが有効です。

Q4. 引き継ぎ書はどれくらいの分量が適切ですか?

分量より順番です。30ページあっても3ページ目までしか読まれなければ意味がありません。最初の1週間にやることだけで1ページに収め、次に進行中の案件、その後ろに全体像と定型業務、最後に関係者と注意点を置く構成にしてください。80点のものを2週間前に渡すほうが、100点を前日に渡すより役に立ちます。

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